過払い金|建築工事の瑕疵で隣人に支払った賠償金を建築業者に請求出来るか?

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組織


主文

1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人に生じた分は控訴人の,被控訴人に生じた分は被控訴人の各負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1控訴の趣旨
(1)控訴人
ア原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
イ被控訴人の請求を棄却する。
ウ訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
(2)被控訴人
ア原判決を次のとおり変更する。
イ控訴人は,被控訴人に対し,3000万円及びこれに対する平成12年1月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
ウ訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
エ仮執行の宣言
2控訴の趣旨に対する答弁
(1)控訴人
被控訴人の控訴を棄却する。
(2)被控訴人
控訴人の控訴を棄却する。

第2事案の概要

1本件請求の概要
本件は,被控訴人が,被控訴人(注文者)と控訴人(請負人)の間の建物建築工事請負契約に基づいて施工された工事の瑕疵により隣地のAことB(以下「A」という。)所有の土地建物に亀裂などが生じ,その復旧及びAに生じた損害等に関し,被控訴人及び控訴人とAとの間に裁判上の和解が成立し,同和解により被控訴人と控訴人は連帯してAに対して土地建物の復旧工事債務及び損害賠償債務を負担するに至ったが(負担部分の割合は控訴人が100パーセント),被控訴人は,この復旧工事債務及び損害賠償債務について,Aとの間で,復旧工事債務をその工事費用相当額を支払う旨の金銭債務に更改し,これと損害賠償債務とを併せて2500万円を支払う旨の示談契約を締結し,被控訴人は,この示談契約に基づきAに2500万円を支払い,また,この弁済のために500万円の出捐を要したとして,連帯債務者間の求償権の行使として,控訴人に対し,上記合計3000万円及びこれに対する弁済の日以後である平成12年1月20日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
2前提となる事実
(1)被控訴人はホテル業等を目的とする株式会社で,控訴人は土木建築の請負,住宅の建設等を目的とする株式会社である。
被控訴人と控訴人は,昭和61年8月2日,被控訴人を注文者,控訴人を請負人として,被控訴人所有の土地(東京都江戸川区a以下省略。
以下「被控訴人土地」という。)上に(仮称)「Cホテル」(以下「本件建物」という。)を請負代金を2億7803万9000円,工期を同日から昭和62年1月31日までとする等の約定で建築する旨の契約(以下,この請負契約を「本件請負契約」といい,本件請負契約に基づく工事を「本件工事」ともいう。)を締結した。
(乙14の1ないし3,弁論の全趣旨)
(2)控訴人が本件工事に着工したところ,その直後から,本件建物がラブホテルとして使用されることを懸念する近隣の住民らが工事の中止を要求し,住民らとの話合いのため一時工事が中断され,昭和62年1月16日に工事が再開されたが,その後も,被控訴人土地の隣地であるAの所有の土地(東京都江戸川区a以下省略。
以下「A土地」といい,同地上に建築されているA所有の建物を「A建物」という。)に居住するAは,建築に反対の態度をとり続け,その家族ら共々工事の続行を妨害する行動を再々とり,ついには,同年3月31日,被控訴人及び控訴人を債務者として,本件建物の建築の禁止を求める仮処分(東京地方裁判所同年(ヨ)第1719号事件。
以下「本件仮処分事件」という。)を申し立てた。
他方,控訴人は,このころ,本件建物の基礎工事を行っていたが,同日から同年4月25日ころまでの間に,この工事が原因でA建物の土間のたたきとA土地(庭)の境界部に約20センチメートルの亀裂が生じ,また,その影響でA方の水道管が破損して断水し,さらには,破損箇所から水が吹き出るという事故が発生し,そのため,同月28日,江戸川区役所から工事の安全性が確保されるまでは工事の施工の中止を勧告する旨の「勧告書」が控訴人に交付され,控訴人は,この勧告に従い工事を中止した。
その後,本件工事は,本件仮処分事件が係属していたことや後記のとおり被控訴人と控訴人との間で本件請負契約を巡り紛争が生じたこともあって,基礎工事の一部を終えたままの状態で,再開されることはなかった。
(甲4ないし6,乙4,弁論の全趣旨)
(3)本件仮処分事件は,昭和62年4月15日を第1回審尋期日として審理が進められたが,上記(2)のとおり同事件の係属と同時にA土地に亀裂等が発生したことなどから,この亀裂の修復等を目的として和解が進められ,その結果,昭和63年1月27日の第20回審尋期日において,被控訴人及び控訴人とAとの間に次のような裁判上の和解(甲1。
以下「本件和解」という。)が成立した。
ア被控訴人及び控訴人は,Aに対し,A土地及びA建物に今回生じた毀損の発生原因が控訴人が被控訴人土地につき行った本件工事によるものであることを認める。
イ被控訴人及び控訴人は,A土地に生じた亀裂を埋め合わせ,地盤の補強(改良を含む。)をし,損害の拡大を防止することを目的として土地復旧工事を次の要領で行うものとし,Aは,これを了承する(以下,この和解条項によるA土地の復旧工事を「土地復旧工事」といい,この復旧工事をなす債務を「土地復旧工事債務」という。)。
(ア)土地復旧工事は,次の内容により行うものとし,工事及び施工管理は,控訴人が日特建設株式会社(以下「日特建設」という。)に請け負わせることによって行う。当該費用は,控訴人の負担とする。
aA土地の地盤に生じている亀裂の事前調査
b地盤に生じた亀裂の埋め合わせと地盤補強のためのグラウト及び薬液注入等の工事
c上記の工事期間中地盤の平衡を保つため及び工事結果の確認のため必要な専門業者による計測
(イ)上記事前調査,グラウト薬液注入工事及び計測の内容及び方法については,Aの依頼するDと日特建設の協議をもって決する。
なお,事前調査は,試験的注入法によって行うものとする。
(ウ)上記の工事を行うにつき,日特建設は,その有する技術を十分に発揮し,万全な工事をするものとする。
(エ)事前調査の結果は,正確に記録するものとし,記録の謄本をAに交付する。
(オ)グラウト及び薬液注入工事を行うに先立って,事前調査の結果に基づく工事計画書(工事責任者の氏名,工程表,薬液の配合成分,注入方法,作業人員等,作業の明細を含む。)を作成するものとし,その謄本をAに交付する。
(カ)A土地周囲の塀について現存する亀裂及び傾斜が拡大しないような万全な措置をとる。
ただし,A土地と被控訴人土地の境界に存する塀は,土地復旧工事の際に撤去する。
塀(撤去部分を含む。)の修復は,後記建物復旧工事において行う。
(キ)控訴人は,A土地の地盤補強のため,A土地へのグラウト及び薬液注入工事終了後60日間は被控訴人土地につき本件工事を行わない。
(ク)上記(キ)の期間終了時,計測数値について確認を行う。
計測数値に異常が認められたときは,復旧方法につき再度協議する。
異常数値の有無については,Dと日特建設の協議をもって決するものとする。
ウ上記イ(ク)により異常数値が認められないときは,控訴人は,直ちにA建物及び周囲の塀(基礎を含む)の本復旧工事を行う。
復旧工事の方法については,AよりA建物の設計図を預かり,塀・家屋の現況を調査し,その調査結果に基づき本復旧方法を検討し,Aの承認を得た上で決定するものとする。
社会通念上新築の必要があると認められるときは,本復旧の方法として建物の新築方式を採ることもある(以下,この和解条項によるA建物及び塀の本復旧工事を「建物復旧工事」といい,建物復旧工事をなす債務を「建物復旧工事債務」という。
また,建物復旧工事と土地復旧工事とを総称して「本件復旧工事」あるいは単に「復旧工事」といい,本件復旧工事をなす債務を「本件復旧工事債務」という。)。
建物復旧工事が完了後,控訴人は,本件工事を再開することができる。
エ上記イ,ウの条項により補填し得ない損害で,被控訴人及び控訴人の責めに帰するものについては,被控訴人及び控訴人は,Aに対し,連帯して賠償すべき義務のあることを認める(以下,この和解条項による賠償債務を「本件賠償債務」という。)。
オAは,あくまでも本件建物の建設に反対しており,本合意によるも,その反対の意思を変えるものではないことを被控訴人及び控訴人は認識する。
(甲1,乙4,弁論の全趣旨)
(4)上記(2)のとおり,本件工事は,昭和62年4月28日に江戸川区役所からの勧告を受けて中止され,同日以降も再開されないまま推移していたが,本件和解成立後も,工事を再開するには本件復旧工事を行うことが必要となったことなどから,控訴人としては,いつまでに本件工事を再開することができるかその見通しを立てることが困難となった。
そこで,控訴人は,被控訴人に対し,いったん本件請負契約を解消して本件工事現場を埋め戻し,それまでの工事に要した費用を精算することを求めた。
しかし,被控訴人は,あくまで工事の再開を要求したため,控訴人は,昭和63年6月9日被控訴人に到達した書面(甲2,乙15の1)により,本件請負契約を同契約の内容となっている四会連合協定工事請負契約約款(乙14の2。
以下「約款」という。)28条(2)a(工事の遅延又は中止期間が工期の4分の1以上になったとき又は2か月以上になったときは請負人は契約を解除することができる旨の約定)に基づき解除する旨の意思表示をし,その後も,被控訴人に対し,再三,清算を要求するとともに本件工事を再開する意思のないことを通知した。
これに対し,被控訴人は,本件工事が再開されず遅滞していることは控訴人に責任があるとして,同年11月,控訴人に対し,訴え(東京地方裁判所同年(ワ)第15558号事件。
以下「別件訴訟」という。)を提起し,同月24日に控訴人に送達された訴状(甲3)により,約款27条(2)e(請負人が契約に違反し,その違反によって契約の目的を達することができないと認められるときは,注文者は契約を解除することができる旨の約定)又は同g(請負人が約款28条(2)の各号の一に規定する理由がないのに契約の解除を申し出たときは,注文者は契約を解除することができる旨の約定)に基づいて本件請負契約を解除する旨の意思表示をし,前払金,原状回復費用及び約款に基づく解除までの遅滞による違約金合計2億8000万円余りの金員の支払を請求した。
(甲2ないし5,乙4ないし6,7の1及び2,14の2,15の1及び2)(5)控訴人は,本件和解成立後,Aと土地復旧工事の進め方について何度か打合せを行い,昭和63年4月4日には,控訴人(担当者E),その代理人弁護士及び本件和解により土地復旧工事の請負業者として選定された日特建設(担当者F)の3名が本件和解に基づく土地復旧工事の細目について打合せをするためにA宅を訪れた。
しかし,A(及び同席したその妻)は,日特建設があらかじめ提出していた本件和解で定められた工法に従った施工計画書による土地復旧工事に反対し,さらには,日特建設を非難するような言動を繰り返したため,実質的な話合いができず,同日,日特建設は,控訴人に対し,Aの言動を理由に土地復旧工事を請け負うことを断った。
控訴人は,同年7月ころまで日特建設に対し再三翻意を促したが,同社の拒否の態度は変わらず,同社をして土地復旧工事を請け負わせることは不可能となった。
そのため,控訴人は,Aの要求に応じ別の業者(代替業者)を選定して土地復旧工事を行うこととしたが,更にAは代替業者も同人が選定することを認めるよう要求してきたため,控訴人は,Aの選定した代替業者の行う工事内容が本件和解で定められた範囲内にあり,工事費用が妥当であることを条件にAのこの要求にも応ずることとした。
その結果,Aは,同年11月8日付け株式会社ソイル・ブレーン作成の土地復旧工事の事前調査に関する見積額1292万6900円の見積書(甲31)を控訴人に送付してきた。
しかし,この見積書は,事前調査の方法について本件和解で定められた試験的注入法とは別の方法に基づいて見積をしており,しかも,控訴人からみれば過大な見積りであった。
そこで,控訴人は,これらの点を指摘してこの見積書による工事には同意できないことを伝えるとともに,同じ事前調査の方法を採用した場合でもこの見積書の見積額が過大であることの裏付けとして,同年12月9日付け株式会社共同地質作成の見積額682万8800円の見積書(甲32)をAに送付した。
このようなやり取りの後,Aは,改めて,控訴人に対し,代替業者を選定するよう申し入れてきたので,控訴人は,三信建設工業株式会社(以下「三信」という。)を同社の了解を得て土地復旧工事の代替業者として選定し,Aに対し,平成元年2月18日ころ,三信の作成した同月7日付けの地盤補強のための薬液注入工事に関する施工計画書(乙10)及び同月8日付けの同工事の費用の見積額を139万円とする見積書(甲33)を送付した。
しかし,Aは,本件和解で定められた試験的注入法による事前調査に反対するなどしたため,三信を代替業者とする土地復旧工事の話合いも進展せず,同年5月ころには立ち消えとなってしまった。
(甲6,31ないし33,乙4,8,9の1,10,11の1)
(6)平成元年5月,別件訴訟の口頭弁論期日において裁判所からAを参加させての和解勧告があり,以後,Aとの関係で,本件復旧工事をA側で施工し,その妥当な工事費用を被控訴人及び控訴人が負担するとの方向で話合いが進められ,和解期日が重ねられた。
そして,この間の平成2年4月ころ,控訴人は,和解のための資料として,復旧工事費用を862万円と見積もった見積書(乙3)を提出した。
これに対し,Aは,復旧工事費用は2億円以上を要すると主張し,それに沿った勝村建設株式会社(以下「勝村建設」という。)作成の見積書等を提出したが,これらの見積書は,A土地の全面的な地盤改良を目的として見積もられており,本件和解で定められた復旧工事とはその内容が異なっているため,控訴人としては,このような見積書に基づく復旧工事費用を前提に和解に応じることはできなかった。
しかし,Aは,この金額に固執したため,同年9月に和解は打ち切られた。
(甲6,乙3,4)
(7)Aは,平成2年10月,本件復旧工事債務の履行が遅滞していることにより損害を受けたと主張し,被控訴人及び控訴人を共同被告として本件復旧工事の履行に代わる損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所同年(ワ)第13056号。
以下「前件訴訟」という。)を提起した。
Aが主張していた損害は,1地盤振動調査費用28万4280円(甲34),2地質調査費用72万1000円(甲35の1,2),3地盤改良工事代3億0869万1000円(上記和解期日で提出された勝村建設の見積りによる。),4家屋解体,新築工事代4892万5000円(同様勝村建設の見積りによる。),5解析及び調査費144万円(甲36),6相談料2万円(甲37)等合計3億6900万円余りであった。
前件訴訟でも,A土地及びA建物を被控訴人が買い取る方向での和解が2度ほど試みられたが,Aの要求する金額が時価とかけ離れていたため,いずれも合意に達しなかった。
(甲6,34,35の1及び2,36,37,乙4,弁論の全趣旨)(8)上記のとおり別件訴訟,前件訴訟のいずれにおいても,Aと被控訴人及び控訴人との間に和解が試みられたものの,成立には至らず,前件訴訟においては,平成8年1月29日,本件復旧工事債務(土地復旧工事債務)の履行が遅滞したのは,Aがその実現を拒否していることなどにあり,被控訴人及び控訴人には遅滞の責めはないとして,Aの請求を棄却する判決(甲6)が言い渡され,この判決は,そのころ確定した。
また,別件訴訟においては,同月31日,本件工事が遅滞したのは被控訴人が近隣対策を怠ったこと及びAが理不尽な要求をして本件工事再開の前提である本件復旧工事(土地復旧工事)をさせなかったことにあり,控訴人に遅滞の責めはなく,被控訴人の解除は認められないとして,被控訴人の請求を棄却する判決(甲4)が言い渡され,この判決に対して被控訴人は控訴したが,同年12月18日,控訴棄却の判決(甲5)が言い渡され,請求棄却の1審判決は,そのころ確定した。
本件復旧工事(土地復旧工事)は,昭和63年1月27日に本件和解成立後,上記のような経緯で工事に着手できないまま8年以上もの期間が経過していたが,Aは,前件訴訟が同人の敗訴に終わるや,平成8年2月14日付け書面(甲13)で,被控訴人及び控訴人に対し,改めて,土地復旧工事を行うよう催告し,これに対し,控訴人は,同年3月1日付け書面(乙1の1)で,本件和解による控訴人の本件復旧工事債務は,Aが前件訴訟において履行に代わる損害の賠償を求めることを選択し,かつ,A敗訴の判決が確定した結果消滅していると回答したほか,本件復旧工事については控訴人が履行の提供をしているのにAが理由なくその受領を拒絶しており,これはAの債務不履行に該当するから本件和解を解除する旨の意思表示をし,以後,本件復旧工事について控訴人とAとの間に交渉は行われていない。
(甲4ないし6,13,乙1の1及び2,弁論の全趣旨)
(9)平成9年に至り,被控訴人は,被控訴人土地上に新たに(仮称)Gマンションという分譲マンションの建築を計画し,Aにその承諾を求めたところ,同人は,本件復旧工事を行うことが先決であるとしてその工事の施工を要求した。
そこで,同年7月末日ころから,被控訴人とAとの間に本件復旧工事に関する話合いが始められたが,容易に進展せず,平成10年3月ころから,被控訴人は,マンションの建築請負業者である赤羽建設株式会社(以下「赤羽建設」という。
その代表者Hを,以下「H」という。)にAとの交渉を委任し,実際には,Hが代理人という形でAとの交渉に当たることとなった。
この間の同年1月8日にマンションの建築確認申請がされ,同年4月22日に建築確認通知(甲19の2)がされた。
HとAの交渉は相当回数繰り返されたが,復旧工事の内容について意見が一致せず,話合いは平行線をたどった。
そのため,同年6,7月ころからは,Aが本件復旧工事を行い,その代わりに被控訴人がその工事費用相当額をAに支払うという方向での話合いが進められるようになった。
Aは,同人の依頼した業者の作成した「A邸沈下修正工事」と題する見積額2009万0500円の見積書(甲26の2),その施工計画書(甲26の3)及び「A邸擁壁および塀改修工事」と題する見積額1168万6200円の見積書(甲26の4)に基づいて,これらの見積書の合計額3177万6700円に近い工事費用相当額の金額の支払を求め,他方,Hは,専門業者として本件復旧工事費用はせいぜい600万円程度であり,A建物を取り壊し,A土地の地盤を改良した上で同規模の建物を新築してもその費用は1800万円程度と判断していたため,工事費用に関する双方の考えには大きな隔たりがあった。
しかも,Aは,本件工事の瑕疵によりAに生じた慰謝料等合計1780万円の損害(その内訳を記載した書面が甲26の1)を受けたとして,その支払も併せて要求し,最終的に上記見積額とこの損害額との合計額4957万6700円に近い金額の支払を求めてきた。
このような経過から話合いは容易に決着がつくような状況にはなかったが,第三者を交えて交渉した結果,同年8月17日,被控訴人がAに対して同人の主張する損害も含め2500万円(その内訳は,本件復旧工事費用相当額が1800万円,Aの損害相当額が800万円)を支払うことで概ね了解に達した。
その後,支払方法などについて協議し,被控訴人とAは,平成11年1月29日,本件復旧工事などに関し,要旨,次のような内容の示談契約(甲7。
以下「本件示談契約」という。)を締結した。
ア被控訴人は,Aに対し,本件復旧工事をAが代わって行うことに伴う工事費用の負担及び本件賠償債務として合計2500万円(以下「本件示談金」という。)の支払義務のあることを認め,同年2月15日限り2200万円,同年5月15日限り300万円を支払う。
イAは,本件復旧工事をAが代わって自ら行うこととし,また,本件賠償債務については上記アの金員の支払により一切解決したものとする。
ウ被控訴人とAは,上記ア,イにより本件復旧工事に関する被控訴人と控訴人の義務の履行については一切解決したものとし,本件工事及び本件復旧工事に関して他に何らの債権債務のないことを確認する。
エAは,被控訴人が被控訴人土地上に建築予定のマンションについて,その工事をすることを異議なく承認する。
(甲7,14,15,16の1及び2,18,19の1及び2,20,21の1ないし3,22の1ないし3,25の1,9,13及び14,26の1ないし4,27の1ないし3,28の6,29,30)(10)被控訴人は,Aに対し,本件示談契約に従い,本件示談金を平成11年2月15日に2200万円,同年5月15日に300万円をそれぞれ支払い,また,前記のとおり赤羽建設にAとの交渉を委任し,本件示談契約が締結に至ったことから,同年6月30日,同社に対し,示談仲介手数料として500万円を支払った。
(甲8の1及び2,9)
3争点及び争点についての当事者の主張
(1)本件和解により被控訴人及び控訴人がAに対して負担することとなった本件復旧工事債務が連帯債務であるかどうか。
連帯債務である場合には,それぞれの負担部分の割合はどのように定められていたか。
(被控訴人の主張)
本件和解により,被控訴人と控訴人は,連帯してAに対し本件復旧工事債務を負担したもので,その負担部分は,控訴人が100パーセントと定められた。
(控訴人の主張)
本件復旧工事債務は,控訴人が単独で負担することがAとの間に合意されたものであり,被控訴人と連帯負担したものではない。
(2)被控訴人とAとの間で本件復旧工事債務を消滅させ,新たに金銭債務を負担する旨の更改契約が締結されたかどうか。
更改契約が締結されたとして,被控訴人が本件示談契約及び仲介契約に基づきA及び赤羽建設に支払った合計3000万円について,連帯債務者の弁済として,被控訴人が控訴人に対して求償権を取得したといえるかどうか。
(被控訴人の主張)
ア更改契約について
被控訴人とAは,平成11年1月29日,本件示談契約を締結し,同契約において,本件復旧工事債務について,本件復旧工事をAが行い,その工事費用を被控訴人が負担するとの合意をした。
すなわち,本件復旧工事債務(旧債務)を消滅させ,その工事費用に相当する金銭債務(新債務)を負担するとの更改契約(以下「本件更改契約」という。)を締結した。
イ求償権の取得について
(ア)被控訴人とAは,本件更改契約の締結と併せて,本件示談契約において,被控訴人がAに対して本件復旧工事の工事費用相当額の支払債務及び本件賠償債務を合計2500万円(本件示談金)とし,本件示談金を支払うことによりこれらの債務を消滅させる旨の合意をした。
被控訴人は,Aに対し,本件示談金を支払い,また,本件示談契約の締結について仲介を依頼した赤羽建設に対してその手数料500万円を支払った。
本件復旧工事債務及び本件賠償債務は,控訴人の負担部分が100パーセントである連帯債務で,本件更改契約による本件復旧工事債務消滅の効果は控訴人にも及ぶものであり(民法435条参照),被控訴人が新たに負担した本件復旧工事の工事費用相当額の支払債務及び本件賠償債務の合計額2500万円(本件示談金)を被控訴人は連帯債務者としてAに支払ったものであるから,被控訴人は控訴人に対して同額の求償権を取得した。
また,被控訴人が赤羽建設に支払った仲介手数料は,上記弁済のために必要な費用であったものであるから,これもまた,被控訴人は,控訴人に対して求償することができる。
(イ)仮に全額の求償が認められないとしても,本件示談金の支払により,控訴人は,控訴人がAとの本件復旧工事に関する交渉等の過程で自認していた本件復旧工事の費用(土地復旧工事及び建物復旧工事の費用)相当額(乙3の見積額862万円,甲32の見積額682万8800円,甲33の見積額139万円,以上合計1683万8800円)の支払を免責されたものであり,また,Aが本件工事の瑕疵により被った損害で現実に支出した費用(甲34ないし37の合計246万5280円)は本件賠償債務としてAに対して賠償すべきものであるところ,この支払も免責されたものであるから,控訴人は,被控訴人に対し,少なくとも,以上の合計額1930万4080円の求償債務を負担している。
(控訴人の主張)
ア本件復旧工事債務は控訴人の単独債務であるから,被控訴人が本件復旧工事債務を消滅させる更改契約を締結することはできない。
イ被控訴人は,本件復旧工事を行うことについて協力せず,すべて控訴人に任せていたのに,本件示談契約は,本件和解後10年以上を経て,しかも,工事費用負担者である控訴人には全く連絡がないまま締結されたものである。
本件示談契約は被控訴人が新たに分譲マンションを建築するために締結されたもので,本件示談金は,このマンション建築の承諾料というべき性質のものであり,本件復旧工事債務とは無関係である。
そうでないとしても,上記のような経過で締結された本件示談契約に基づく求償金の請求は,信義則に反するか権利濫用として許されない。
ウ被控訴人の本件更改契約及び連帯債務者としての求償権取得の主張は,当審において初めてされたものであり,それまでは,立替払(第三者の弁済)による求償を主張していたもので,時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下されるべきである。
(3)本件更改契約締結前に本件復旧工事債務が消滅していたかどうかなど。
ア履行不能による消滅
(控訴人の主張)
本件和解では土地復旧工事債務は日特建設が請け負うことがその内容となっていたが,Aらの言動が原因で日特建設が請け負うことを拒絶したため,日特建設に請け負わせることは不可能となり,この時点で土地復旧工事債務の履行は社会通念上不能となり,ひいては本件復旧工事債務の履行が不能となった。
したがって,日特建設に土地復旧工事を請け負わせることが不可能となった時点で本件復旧工事債務は履行不能により消滅した。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張を争う。
イ債務の選択による消滅など
(控訴人の主張)
Aは,前件訴訟において,本件復旧工事債務の履行を請求しないで,その履行に代わる損害賠償請求権を選択して行使した。
履行に代わる損害賠償請求権は,本来の債権が転化したものであるから,それを選択した以上,Aとしては本件復旧工事債務の履行請求権を放棄したか,その履行請求を行うことは信義則に反し許されなくなったものというべきである。
そうでないとしても,本件復旧工事債務とその履行に代わる損害賠償請求権とは訴訟物を同一にするものというべきであるから,前件訴訟の判決がAの敗訴に確定している以上,Aは,その既判力により本件復旧工事債務の存在を控訴人に対して主張することはできず,これは,被控訴人も同様というべきである。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張を争う。
ウ解除による消滅
(控訴人の主張)
土地復旧工事債務を履行するについては,日特建設が土地復旧工事を請け負うように協力する義務をAは負担していたものというべきところ,前記のとおりAの言動が原因で日特建設は土地復旧工事の請負を拒絶したものであるから,控訴人は,Aのこの債務不履行を理由に,平成8年3月2日Aに到達した書面(乙1の1,2)で本件復旧工事債務に係る契約を解除する旨の意思表示をした。
これが認められないとしても,控訴人は,再三本件復旧工事を行うべくAに協議を求め,その準備もして履行の提供をしたのに,Aの理由のない受領拒絶により履行できなかったものであるから,控訴人はこのAの受領遅滞を理由に上記のとおり解除の意思表示をした。
(被控訴人の主張)
控訴人の主張を争う。
エ時効による消滅(債務の承認があったかどうか。)
(控訴人の主張)
本件和解が成立した昭和63年1月27日から10年を経過した平成10年1月26日の満了により本件復旧工事債務は時効により消滅した。
したがって,本件復旧工事債務は,本件更改契約が締結された平成11年1月29日より前に時効消滅しているものである。控訴人は,この時効を援用する。
前件訴訟において本件復旧工事債務の存在を前提として応訴していたことと債務の承認とは別問題であり,本件復旧工事債務は前件訴訟とは無関係に履行不能などにより消滅していたのであるから,債務の承認ということはあり得ない。
(被控訴人の主張)
控訴人は,前件訴訟において,本件復旧工事債務の存在を前提として応訴していたものであるから,前件訴訟の口頭弁論終結時(判決言渡し時である平成8年1月29日に近接したころ)において本件復旧工事債務を承認していた。
本件更改契約の締結は,この債務承認時より10年を経過していないので本件更改契約締結時において本件復旧工事債務は時効消滅していない。
仮にこれが認められないとしても,平成2年10月の前件訴訟提起後において,控訴人は,本件復旧工事債務の存在を前提として和解交渉を行っているのであるから,そのころには本件復旧工事債務を承認していたものであり,その時から本件更改契約の締結までに10年を経過していないので,このことからも本件復旧工事債務が時効消滅しているとはいえない。
(4)控訴人の相殺の主張が認められるかどうか。
(控訴人の主張)
控訴人は,被控訴人に対し,次のとおり合計8021万6400円の債権を有している。
控訴人は,平成13年6月25日,当審における第4回口頭弁論期日において,これを自働債権として,被控訴人の本件請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
なお,被控訴人の本件請求債権は本件和解が成立した昭和63年1月27日時点で生じていたものというべきであるから,仮にこれらの自働債権が消滅時効期間を経過しているとしても,民法508条により相殺することができる。
ア本件工事の出来高清算金残金7533万5900円
控訴人は,被控訴人の債務不履行により本件請負契約を解除した昭和63年6月9日時点で1億0733万5900円に相当する工事を行っていたので,控訴人は,被控訴人に対し,この出来高から既払の3200万円を控除した7533万5900円の債権を有する。
イ埋戻し費用488万0500円
本件工事は,基礎工事の途中で中止され,その後本件請負契約は上記のとおり解除されたのであるが,工事現場に穴が掘られた危険な状態で放置されていたため,やむなく,控訴人は,平成6年12月ころ埋戻しを行い,その費用として488万0500円を負担した。
これは,本件請負契約が解除されたために生じた費用であり,結局は被控訴人の債務不履行により生じた損害というべきである。
そうでないとしても,控訴人は,事務管理として埋戻しを行ったものであるから,民法702条に基づきその費用を被控訴人に対して償還請求することができる。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,埋戻し費用に相当する損害賠償請求権又は費用償還請求権を有する。
(被控訴人の主張)
ア控訴人の主張する出来高清算金残金債権及び埋戻し費用に相当する損害賠償請求権は,本件請負契約を解除したとする昭和63年6月9日から3年を経過した平成3年6月8日の満了により時効消滅した(民法170条2号参照)。
したがって,被控訴人が求償権を取得した時点(平成2年)では,控訴人の主張する自働債権は既に時効消滅していたものであるから,民法508条の適用の余地はない。
なお,工事現場の埋戻しは請負人である控訴人の責任で行われるべきものであるから,そもそもこの費用を損害あるいは事務管理の費用として被控訴人に請求することはできない。
イ控訴人の相殺の主張は,当審において初めてされたものであり,時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下されるべきである。
4証拠
証拠関係は,本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから,これをここに引用する。

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理由

1争点(1)(本件和解により被控訴人及び控訴人がAに対して負担することとなった本件復旧工事債務が連帯債務であるかどうか。
連帯債務である場合には,それぞれの負担部分の割合はどのように定められていたか。)について
(1)前記前提となる事実(3)によれば,本件和解は,Aが被控訴人と控訴人とを債務者として申し立てた本件仮処分事件において,被控訴人が発注し控訴人が請け負って行われた本件工事により生じたA土地の亀裂の修復などを目的として合意されたものであり,その和解条項では,被控訴人及び控訴人はA土地に生じた亀裂を埋め合わせ,地盤の補強(改良を含む。)をし,損害の拡大を防止することを目的として土地復旧工事を行うものとされており,上記A土地についての損害は,Aに対しては,本来本件工事の注文者である被控訴人と請負人である控訴人とが共同して賠償の責任を負うべきものであることを併せ考慮すると,本件和解の上記条項は,被控訴人と控訴人とがAに対して共同して土地復旧工事を行う義務,すなわち,土地復旧工事債務を負担することを合意したものであることは明らかというべきであり,この土地復旧工事債務はその性質上不可分であることからすれば,この共同して債務を負担する旨の合意は連帯債務の合意と認めるのが相当である。
また,本件和解によれば,土地復旧工事は控訴人が日特建設に請け負わせて行い,その工事費用も控訴人が負担することとされていたのであるから,土地復旧工事債務についての被控訴人と控訴人の負担部分の割合は,控訴人がその全部を負担すると定められたものと認めるのが相当である。
(2)次に,建物復旧工事については,本件和解では,控訴人が建物復旧工事を行う旨の条項はあるものの,被控訴人と控訴人が共同で同工事を行う旨の直接の定めはない。
しかし,建物復旧工事と土地復旧工事とは一連の工事であって,いずれも被控訴人が発注し控訴人が請け負って行われた本件工事によりA土地及びA建物に生じた亀裂などの修復を目的として行われることが予定されているものであり,これを区別する理由のないことからすると,建物復旧工事についても,土地復旧工事同様被控訴人と控訴人が連帯してその復旧工事債務を負担したものであり,その負担部分の割合は控訴人がその全部を負担すると定められたものと認めるのが相当である。
(3)以上のとおり,本件復旧工事債務(土地復旧工事債務及び建物復旧工事債務)は,被控訴人と控訴人の連帯債務であり,その負担部分の割合は,控訴人が100パーセントということになる。
2争点(2)(被控訴人とAとの間で本件復旧工事債務を消滅させ,新たに金銭債務を負担する旨の更改契約が締結されたかどうか。
更改契約が締結されたとして,被控訴人が本件示談契約及び仲介契約に基づきA及び赤羽建設に支払った合計3000万円について,連帯債務者の弁済として,被控訴人が控訴人に対して求償権を取得したといえるかどうか。)について
(1)前記のとおり,被控訴人は,被控訴人土地上に新たに分譲マンションの建築を計画し,Aにその承諾を求めたところ,本件復旧工事を行うことを要求され,その後の被控訴人(代理人H)とAの話合いの結果被控訴人とAとの間に本件示談契約が締結されたもので,本件示談契約の骨子は,本件復旧工事をAが代わって行い,その工事費用を被控訴人が負担し,この工事費用と本件賠償債務とを合計して2500万円(本件示談金)とし,本件示談金を被控訴人がAに支払うことで本件復旧工事債務及び本件賠償債務については一切解決したこととするというものであり,被控訴人は,本件示談契約に従い本件示談金をAに支払い,また,示談仲介手数料として500万円を赤羽建設に支払ったものである(前提となる事実(9),(10))。
上記の事実関係からすると,本件示談契約のうち,本件復旧工事を被控訴人に代わってAが行うこととし,その工事費用を被控訴人が負担するとの部分は,それまで被控訴人が負担していた本件復旧工事債務を消滅させ,その代わりにその工事費用を被控訴人が負担する,すなわち,工事費用に相当する金銭債務を被控訴人が負担することを内容とするものであり,債務の要素を変更するものというべきであるから,その性質は,更改契約(本件更改契約)であると認めるのが相当である。
そして,本件示談契約では,この工事費用相当額と本件賠償債務の合計額を2500万円(本件示談金)とし,本件示談金を支払うことで本件復旧工事債務及び本件賠償債務については一切解決したこととするとされており,上記のとおり,被控訴人は,本件示談契約に従い,Aに本件示談金を支払ったのであるから,本件賠償債務及び本件復旧工事費用相当額の支払債務は,すべて消滅したことになる。
そうすると,本件復旧工事債務は,前記1で判断したとおり,被控訴人と控訴人の連帯債務であるから,本件更改契約により,控訴人の本件復旧工事債務も本件復旧工事費用相当額の支払債務に変更されて消滅し(民法435条参照),その後,さらに,被控訴人が本件示談金を支払ったことにより,控訴人は,本件更改契約により負担することとなった本件復旧工事費用相当額の支払も免責されたことになる。
そして,本件復旧工事債務についての被控訴人と控訴人との連帯債務者としての負担部分の割合は,控訴人が100パーセントであったから,被控訴人は,控訴人に対し,本件示談金のうち本件復旧工事費用相当額については,連帯債務者の求償権の行使としてその全額を求償することができるというべきである。
また,本件賠償債務は,本件和解では被控訴人と控訴人の連帯債務とされているから(前提となる事実(3)エ),本件示談金のうち本件賠償債務相当額については,その負担部分の割合に応じて(ただし,本件和解では本件賠償債務についての負担部分の定めがない。),被控訴人は,控訴人に求償することができるものというべきである。
以上,要するに,被控訴人は,本件示談金の支払により,本件復旧工事費用相当額につてはその全額を,本件賠償債務相当額については負担部分に応じて控訴人に対して求償権を取得したものである。
もっとも,控訴人は,本来,本件和解で定められた本件復旧工事費用及び本件賠償債務については相当額を負担すれば足りるのであるから,被控訴人の求償も,その負担額を限度とするものというべきである。
そこで,以下,本件復旧工事費用及び本件賠償債務の各相当額について検討し,併せて,被控訴人が赤羽建設に支払った示談仲介手数料500万円についても求償することができるかどうかを検討する。
ア本件復旧工事費用の相当額について
(ア)本件和解では本件復旧工事費用の額については定められていないので,控訴人が負担すべき本件復旧工事費用の額は,本件和解で定められた工法に従いA土地及びA建物の復旧に通常必要とされる費用をいうものと解される。
ところで,別件訴訟において裁判所からAを参加させての和解の勧告があり,本件示談契約と同様Aが本件復旧工事を行い,被控訴人と控訴人がその工事費用を負担するとの方向での話合いが進められ,和解は結局打切りとなったものの,この過程で,控訴人が和解の資料として平成2年4月ころ本件復旧工事費用を見積った見積書が乙3であり,同号証によれば,本件復旧工事費用は862万円とされており(前提となる事実(6)),また,被控訴人の代理人としてAと本件示談契約の交渉をした専門業者であるHも,本件復旧工事費用は600万円程度であり,地盤を改良してA建物と同規模の建物を新築しても1800万円程度であると判断していたこと(前提となる事実(9))からしても,乙3の見積りは概ね適正なものというべきであり,また,この見積りは控訴人が見積ったものであるから,少なくとも,控訴人はこれを適正な見積りと考えていたことが容易に推認されるところである。
Aは,被控訴人に対し,本件示談契約の交渉の過程で,業者の作成した「A邸沈下修正工事」と題する見積額2009万0500円の見積書(甲26の2),その施工計画書(甲26の3)及び「A邸擁壁および塀改修工事」と題する見積額1168万6200円の見積書(甲26の4)に基づいて,これらの見積書の合計額3177万6700円に近い工事費用相当額の金額の支払を求めていたものであるが(前提となる事実(9)),これらの見積書による工事は,A建物を上部に持ち上げてその基礎部分の改修工事をして建物を元の位置に戻すというような異例の工事であって,本件復旧工事として想定されるような工事ではなく,しかも,その見積り費用も過大であり(甲25の1),これらの見積書は,乙3の見積りが適正であるとする前記判断を覆すには足りない。
そして,他に反対の証拠もないので,本件和解で定められた本件復旧工事に通常必要とされる復旧工事費用は,乙3の見積書による見積額862万円を下らないものと認めるのが相当である。
(イ)被控訴人は,控訴人がAとの本件復旧工事に関する交渉等の過程で自認していた本件復旧工事費用のうち土地復旧工事費用に相当する甲32の見積書による見積額682万8800円,甲33の見積書による見積額139万円も本件復旧工事費用に含まれるべきであると主張する。
しかし,本件和解では土地復旧工事の事前調査は試験的注入法で行うものとされていたところ(前提となる事実(3)イ(イ)),控訴人とAの本件復旧工事に関するやり取りの過程で,Aが本件和解で定められた試験的注入法とは別の方法に基づいた見積額約1300万円の過大な見積書(甲31)を控訴人に送付してきたため,控訴人はこれらのことを指摘し,甲31の見積書による事前調査の方法を採用してもその適正な見積額は680万円余りにすぎないとして甲32の見積書をAに送付したものである(前提となる事実(5))。
したがって,甲32の見積書はAの誤りを指摘するために送付したものであり,もとより控訴人がこの見積額を土地復旧工事費用として自認したものではなく(乙9の1),そもそも,本件和解で定められた工法を前提としていないのであるから,この見積額を本件復旧工事費用に計上することはできない。
なお,この点に関し,被控訴人は,本件和解において土地復旧工事の事前調査の方法が試験的注入法によるとされているのは例示にすぎないと主張するが,事前調査の方法が変わればその費用も異なってくることや本件和解においてわざわざ事前調査は試験的注入法にて行う旨定められていることに照らし,例示にすぎないものとは認められず,この主張は,採用することができない。
次に,甲33の見積書は,控訴人が日特建設の代替業者として選定した三信が作成したものであり,その施工計画書(乙10)とともに,Aに送付したものであるが(前提となる事実(5)),これらの記載からも明らかなとおり,この工事は,本件和解で定められたグラウト(セメントベントナイト)薬液注入工事についての見積りであり,乙3の見積書にもセメントベントナイト液注入工事として,甲33の見積額139万円にほぼ等しい140万1975円が計上されており,乙3の見積額には甲33の工事に相当する見積額も含むものであるから,甲33の見積書による見積額を乙3の見積書による見積額とは別に本件復旧工事費用に計上することはできない。
イ本件賠償債務の相当額について
(ア)被控訴人は,Aが本件工事の瑕疵により被った損害で現実に支出した費用(甲34ないし37の合計246万5280円。
以下,この項で「本件費用」という。)は本件賠償債務として賠償すべきものであるところ,本件示談金の支払により控訴人はこの賠償債務についても免責されたものであるから,控訴人は被控訴人に対してこの246万5280円の求償に応ずべきであると主張する。
Aは,前件訴訟において,本件費用についても本件復旧工事債務の履行遅滞による損害であると主張して,被控訴人及び控訴人に対してその支払を請求していたものであるが,平成8年1月29日にAの請求を棄却する判決が言い渡され,この判決はそのころ確定した(前提となる事実(7),(8))。
したがって,本件費用に係る損害賠償請求権は,前件訴訟の口頭弁論終結時(平成8年1月29日に近接したころ)を基準時として,その不存在がAと被控訴人及び控訴人との間で確定し,この確定判決の既判力により,Aは,被控訴人及び控訴人に対して前件訴訟の判決と抵触する請求をすることは許されなくなったものであり,Aが再度本件費用を損害として請求しても,被控訴人及び控訴人は,これに応ずる必要はないこととなる(訴訟上請求されれば,裁判所は,前件訴訟の判決の既判力を理由にAの請求を棄却することになる。)。
ところで,被控訴人は,本件費用がAの損害であり,これをAに支払ったことが本件賠償債務の免責に当たると主張して,控訴人に求償しているものである。
しかし,上記のとおり,前件訴訟の確定判決によりAの被控訴人及び控訴人に対する本件費用に係る損害賠償請求権は不存在に確定しているのであるから,被控訴人が本件示談金の支払により本件費用を支払ったとしても,これは法的には支払に応ずる必要のない請求に対して任意に応じたにすぎず,控訴人がこの支払により何らかの債務を免責されたということもないのであるから,被控訴人が本件費用について控訴人に対して求償することができないことは明らかというべきである。
(イ)なお,本件示談契約の交渉過程において,Aは,本件工事により1800万円近い損害を受けたとしてその支払を請求し,甲26の1にはその旨の記載があり,被控訴人も,うち600万円を損害と認めて本件示談契約を締結したものである(前提となる事実(9))。
しかし,甲26の1は,その記載内容からAが作成したものと推認されるが,これを客観的に裏付ける資料はなく,この記載からAが直ちに上記のような損害を受けたものと認めることはできず,また,この損害が本件和解で定められた本件賠償債務に該当するかどうかも不明である(なお,甲26の1には,上記(ア)の費用と重複するような記載もある。)。
したがって,被控訴人がうち600万円を損害と認めて本件示談契約を締結したとしても,これを本件賠償債務の支払と認めることはできない。
(ウ)したがって,控訴人が負担すべき本件賠償債務は認められないので,本件賠償債務についての負担部分の定めがどのようなものであれ,被控訴人は,控訴人に対して本件賠償債務相当額の求償をすることはできない。
ウ示談仲介手数料500万円について
上記のとおり,被控訴人は,本件示談契約の締結について赤羽建設(代表者H)にその交渉を委任し,その費用として示談仲介手数料の名目で赤羽建設に500万円を支払ったものである。
被控訴人は,この500万円を本件示談金を弁済するために必要な費用であると主張するが,これは本件示談契約の締結の交渉を委任したことにより生じた費用であるから,本件示談金支払のために必要な費用とは認められず,被控訴人の主張は,採用することができない。
エむすび
以上のとおりであるから,被控訴人は,控訴人に対し,本件示談金の支払により本件復旧工事費用の相当額である862万円については求償権を取得したものと認められるが,これを超える求償権を取得したものとは認められない。
(2)控訴人は,被控訴人が,本件復旧工事を行うことについて協力せず,すべて控訴人に任せていたのに,本件和解成立後10年以上を経て,工事費用負担者である控訴人に全く連絡をすることなく本件示談契約を締結したものであり,しかも,本件示談金は,被控訴人が新しく計画した分譲マンション建築の承諾料というべき性質のものであり,本件復旧工事債務とは無関係であり,そうでないとしても,このような経過で締結された本件示談契約に基づく求償金の請求は信義則に反するか権利濫用として許されないと主張する。
本件示談契約では,Aは被控訴人が被控訴人土地上に建築予定のマンションについてその工事をすることを異議なく承諾することが合意されていて(前提となる事実(9)),本件示談契約がAにおいてこのマンションの建築を承諾する趣旨を含むことは明らかであるが,他方,その承諾の前提としてAから被控訴人に対して本件復旧工事を行うことを要求されたため,主としてそのことを巡って話合いがされ,本件示談契約が締結されたもので,本件示談金も本件復旧工事債務及び本件賠償債務に相当するものとして合意されていることからすると,控訴人の主張するような事情があるからといって,本件示談金が分譲マンション建築の承諾料のみを意味するものとは認めることができず,また,本件請求が信義則に反して許されないあるいは権利濫用であって許されないとすることもできない。
(3)次に,控訴人は,被控訴人の本件更改契約及び連帯債務者としての求償権取得の主張(以下,この項において「本件更改契約などの主張」という。)は当審において初めてされたものであり,それまでは立替払(第三者の弁済)による求償を主張していたものであるから,本件更改契約などの主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下されるべきであると主張する。
被控訴人は,原審においては立替払(第三者の弁済)による求償を主張していたものであり,本件更改契約などの主張は当審における第2回口頭弁論期日において初めて行うに至ったことは,本件記録上明らかである。
しかし,被控訴人は,訴訟の当初から,本件和解の成立,本件和解により負担した被控訴人らの本件復旧工事債務などに関して本件示談契約が締結され,本件示談金を支払ったとの事実を主張し,これらの主張に基づいて原審では本件請求を立替払による求償と法律構成して主張し,当審ではその構成を本件更改契約などとの主張に変更したこと,本件和解の成立などの主張についてはその立証も既にされていることは,同様本件記録上明らかである。
そうすると,本件更改契約などの主張は,当審において初めてされたとはいえ,それは法律構成の変更にすぎず,その基礎となる本件和解などの事実主張は訴訟の当初から主張され,その立証もされているのであるから,新たな立証は不要であり,この主張の変更により訴訟の完結が遅延することとなるとはいえない。
したがって,本件更改契約などの主張は時機に後れて提出した攻撃防御方法とはいえず,控訴人の却下の申立ては理由がない。
3争点(3)(本件更改契約締結前に本件復旧工事債務が消滅していたかどうかなど)について
(1)履行不能による消滅
控訴人は,本件和解では土地復旧工事債務は日特建設が請け負うこととなっていたが,日特建設が請け負うことを拒絶したため,その時点で土地復旧工事債務の履行は社会通念上不能となり,ひいては本件復旧工事債務の履行が不能となったので,本件復旧工事債務は履行不能により消滅した旨主張する。
前提となる事実(5)のとおりの経過で日特建設に土地復旧工事を請け負わせることが不可能となったことは,控訴人の主張するとおりである。
しかし,本件和解により本件復旧工事債務を負担しているのは被控訴人及び控訴人であり,日特建設は本件和解の当事者ではなく,土地復旧工事を請け負う義務を負っているものではないから,日特建設が土地復旧工事を請け負うかどうかは自由であり,したがって,その請負を拒絶することもあり得るのであるから,このような場合に,被控訴人及び控訴人の本件復旧工事債務が履行不能により消滅することとなれば,これはいかにも不合理である。
そして,本件和解において日特建設に土地復旧工事を請け負わせることとしたのは,日特建設が土地復旧工事のような土地の補修工事については同業者の中でも優れた会社であることによるものであるが(乙4),同業者であれば日特建設でなくても土地復旧工事を行うことは可能であることからすると,本件和解においては,日特建設に土地復旧工事の請負を拒絶された場合には,控訴人らにおいて同業の別業者を選定するなどして本件復旧工事を行うことが当然予定されていたものというべきである。
したがって,日特建設が土地復旧工事の請負を拒絶したからといって,そのことから直ちに本件復旧工事債務が履行不能により消滅したとはいえない。
ちなみに,前提となる事実(5)のとおり,控訴人は日特建設の拒絶後三信を業者として選定し,土地復旧工事の履行を進めようとしていたのであり,このことからすると,控訴人も日特建設が土地復旧工事の請負を拒絶したことにより本件復旧工事債務が履行不能になったとは考えていなかったことが明らかである。
(2)債務の選択による消滅など
控訴人は,Aは,前件訴訟において,本件復旧工事債務の履行を請求しないで,その履行に代わる損害賠償請求権を選択して行使したので,Aとしては本件復旧工事債務の履行請求権を放棄したか,その履行請求を行うことは信義則に反し許されなくなった,そうでないとしても,本件復旧工事債務とその履行に代わる損害賠償請求権とは訴訟物を同一にするものというべきであるから,前件訴訟の判決がAの敗訴に確定している以上,Aはその既判力により本件復旧工事債務の存在を控訴人に対して主張することはできず,これは被控訴人も同様というべきであると主張する。
前記のとおり,Aは,平成2年10月に本件復旧工事債務の履行が遅滞していることを理由に被控訴人及び控訴人を共同被告として本件復旧工事債務の履行に代わる損害賠償を求める訴え(前件訴訟)を提起したが,平成8年1月29日にAの請求を棄却する判決が言い渡され,この判決はそのころ確定した(前提となる事実(7),(8))。
この経過から明らかなとおり,前件訴訟は本件復旧工事債務の履行遅滞を理由とする損害賠償請求訴訟であり,本来の債務である本件復旧工事債務はそのまま存続させた状態で損害賠償を求めているものであって,その求めている賠償が履行に代わる損害賠償(填補賠償)であったとしても,本来の債務(本件復旧工事債務)が存続していることには変わりがないものというべきである(本来の債務が存続しているから,被控訴人及び控訴人は,本件復旧工事を行うことによって填補賠償を免れることができる。)。
したがって,Aが前件訴訟を提起して本件復旧工事債務の履行に代わる損害賠償を請求したことをもって,本件復旧工事債務の履行請求権を放棄したあるいはその履行請求を行うことが信義則に反し許されないとすることはできず,控訴人の主張は失当というべきである。
また,前件訴訟の判決の既判力は履行遅滞に基づく損害賠償請求権の存否について生ずるものであり,本件復旧工事債務の存否について生ずるものではないから(本件復旧工事債務の履行請求権とその履行遅滞に基づく填補賠償請求権とは,訴訟物は同じではない。),本件復旧工事債務の存在を主張することが前件訴訟の判決の既判力に抵触することはあり得ず,この点に関する控訴人の主張も失当である。
(3)解除による消滅
控訴人は,日特建設が土地復旧工事を請け負うように協力する義務をAは負担していたものというべきところ,Aの言動が原因で日特建設は土地復旧工事の請負を拒絶したものであるから,控訴人は,この債務不履行を理由に平成8年3月2日にAに到達した書面で本件復旧工事債務に係る契約(以下,この項で「本件復旧工事契約」という。)を解除する意思表示をした,そうでないとしても,控訴人は再三本件復旧工事を行うべくAとの協議を求め,その準備もして履行の提供をしたのに,Aの理由のない受領拒絶により履行できなかったものであるから,控訴人はこのAの受領遅滞を理由に上記のとおり解除の意思表示をしたと主張し,前提となる事実(5),(8)のとおり,概ね控訴人の主張に沿う事実が認められるところである。
本件和解は本件工事により生じたA土地の亀裂の修復などを目的として合意されたもので(前提となる事実(1)ないし(3)),この和解の経過からすると,被控訴人は注文者として,控訴人は請負人としてそれぞれAに対して本件工事により生じた亀裂の復旧の責任(不法行為責任など)をもともと負担する立場にあったもので,本件和解は,その責任を確認し,改めて契約上の義務として本件復旧工事債務について合意したものというべきであり,そのために,本件復旧工事契約は被控訴人及び控訴人が一方的に債務を負担する片務的な内容となっており,Aの義務について特別の定めはない(控訴人は,Aには日特建設が土地復旧工事を請け負うように協力する義務があると主張するが,上記(1)で判断したとおり,日特建設が土地復旧工事の請負を拒絶したとしても,本件復旧工事債務に消長を来すものではなく,このことはAの言動が原因で日特建設が土地復旧工事の請負を拒絶した場合でも同じというべきであるから,本件復旧工事契約においてAにこのような義務を認めることは困難である。)。
本件復旧工事契約の内容がこのようなものである以上,債務者である控訴人から本件復旧工事契約を解除により消滅させることは特段の事情のない限り許されないものと解され,本件復旧工事債務の履行についてAに非協力的な行為あるいは受領遅滞と認められるような行為があったからといって,本件復旧工事契約を解除することはできないものというべきである。
したがって,控訴人の解除の主張は,理由がない。
(4)時効による消滅(債務の承認があったかどうか。)
控訴人は,本件和解が成立した昭和63年1月27日から10年を経過した平成10年1月26日の満了により本件復旧工事債務は時効により消滅したと主張し,これに対し,被控訴人は,控訴人は,前件訴訟において,本件復旧工事債務の存在を前提として応訴していたものであるから,前件訴訟の口頭弁論終結時(判決言渡時である平成8年1月29日に近接したころ)において本件復旧工事債務を承認していたものであり,この時から本件更改契約の締結までに10年を経過していないので,本件復旧工事債務が時効消滅していないと主張する。
本件復旧工事債務は,本件和解(契約)により成立した債務であるから,その消滅時効期間は10年と認められる(民法167条参照。
なお,被控訴人及び控訴人は商人であるが,本件復旧工事債務は被控訴人及び控訴人がAに対して負担していた損害賠償債務を契約上の債務とした本件和解の経過からして商行為により生じたものではないと解される。)。
そして,本件和解が成立したのは昭和63年1月27日であるから,平成10年1月26日の満了により10年の消滅時効期間が経過したことは,明らかである。
前記のとおり,Aは,平成2年10月に本件復旧工事債務の履行が遅滞していることを理由に被控訴人及び控訴人を共同被告として本件復旧工事債務の履行に代わる損害賠償を求める訴え(前件訴訟)を提起したが,平成8年1月29日にAの請求を棄却する判決が言い渡され,この判決はこのころ確定した(前提となる事実(7),(8))。
Aは,前件訴訟において,被控訴人及び控訴人がAに対して本件復旧工事債務を負担していることを主張し,この債務の履行遅滞を理由に損害賠償を請求し,被控訴人及び控訴人は,同人らが本件復旧工事債務を負担していることを認めた上で損害賠償債務の発生を争っていたものである(甲6)。
このように,控訴人は,Aに対して前件訴訟において本件復旧工事債務を負担していることを認めていたものであり,これは時効の中断事由である債務の承認に当たるというべきである。
そして,この債務の承認は前件訴訟の口頭弁論終結時(前件訴訟の判決が言い渡された平成8年1月29日より程遠からぬ以前の日と推認される。)まで継続してされていたのであるから,この時点まで本件復旧工事債務の時効は中断していたものというべきである。
そうすると,本件更改契約が締結された平成11年1月29日までに本件復旧工事債務の消滅時効期間である10年が経過していないことは明らかであるから,控訴人の時効の主張は,理由がない。
4争点(4)(控訴人の相殺の主張が認められるかどうか。)について控訴人は,控訴人が被控訴人に対して有するとする本件工事の出来高清算金残金請求権7533万5900円及び埋戻し費用に相当する損害賠償請求権あるいは費用償還請求権と本件請求債権との相殺を主張し(以下,この項において「本件相殺の主張」という。),被控訴人は,本件相殺の主張を争い,また,時機に後れた攻撃防御方法であるとしてこの主張の却下を求めている。
本件記録によれば,控訴人は,本件相殺の主張を当審における第2回口頭弁論期日において初めて行い,第4回口頭弁論期日において更にそれを敷衍していることが本件記録上明らかである。
控訴人は,別件訴訟において仮定抗弁として本件相殺の主張のうち出来高清算金残金請求権による相殺と同じ主張をしていたものであり(甲4),また,前記のとおり埋戻し費用については本件訴訟が提起された段階で既にその工事を行っていたものであるから,本件訴訟が提起された後はいつでも本件相殺の主張をすることができたものである。
そうすると,控訴人が当審に至るまで本件相殺の主張をしなかったことについては少なくとも過失があり,被控訴人は本件相殺の主張を争っているのであるから,本件相殺の主張について判断をするには,更に主張立証を尽くさせる必要があるところ,他の争点については既に主張立証が終わっており,判決に熟しているものというべきであるから,この時機において新たに本件相殺の主張をすることは訴訟の完結を遅延させるものというべきである。
加えて,相殺の主張についてはその成立又は不成立の判断には既判力を生ずるとされていること(民訴法114条2項)からして,その判断には慎重を期すべきであり,一審の判断を省略するようなことは一般に妥当とはいえないことを考慮すると,本件相殺の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下するのが相当である。
5結論
以上のとおりであるから,被控訴人の本件請求は862万円及びこれに対する求償権取得の後(上記の求償権を取得したのは遅くとも本件示談金の2回分を支払った平成11年5月15日であると認められる。)である本件訴状送達の日の翌日である平成12年1月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合(本件復旧工事債務は前記認定のとおり商行為により生じた債務とはいえないが,負担部分の割合に関する合意は商人間の合意としてその遅延損害金の利率は商事法定利率によるものと認められる。)による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容すべきであり,その余は理由がないので棄却すべきである。
したがって,当裁判所の上記判断と結論を同じくする原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

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